中学受験国語の記述で「これ」が伝わらない、指す内容を補う
記述の答案を見直すとき、本文の指示語が何を指すかは確認しても、自分が書いた答案の中の指示語は見落とされがちです。「この考え方によって問題が解決した」のような一文を書いたとき、「この考え方」が答案のどの部分を受けているかは、書いた本人には分かっています。しかし採点者は答案だけを読みます。本文を見比べながら読んでくれるとは限りません。
この問題は、本文中の指示語が何を指すかを探る設問とは別物です。指示語を四手順で探すは本文の中で候補を絞る話でした。ここで扱うのは、答案を書き終えたあとに、自分の答案の中に残した「これ」「その」「そのような」が、答案単独で意味が通るかどうかという点検です。本文を読んでいない人が答案だけを読んでも対象が分かるか、という基準で見ます。
答案の指示語が伝わらない二つの型
答案に残る指示語には、大きく二つの型があります。
一つ目は、本文の指示語をそのまま答案に写してしまう型です。設問の傍線部に「これ」が含まれていて、その「これ」を含む一文を抜き出すような書き方をすると、答案の中にも「これ」が残ります。本文では前の文を読めば分かりますが、答案は傍線部の前後を切り離して書くため、「これ」の戻り先が答案の中に存在しなくなります。
二つ目は、答案を組み立てる途中で自分が指示語を作ってしまう型です。「このような工夫をしたから、作業が早くなった」のように、前半で説明した内容を後半で「このような工夫」とまとめて書くと、字数は節約できますが、前半と後半のどちらを採点者が先に読んでも意味が通るか、もう一度確かめる必要があります。
どちらの型も、本文と答案を並べて読んでいる自分には違和感がありません。だからこそ、見直しの段階で意識的に探さないと見逃されます。
架空の例題で確認する
次の本文を考えます。
太郎のクラスでは、掃除当番の順番をめぐって毎週もめていた。ある日、班長の花子が、当番表を黒板に貼り、誰がいつ掃除をするかを一目で分かるようにした。さらに、休んだ人の分は次の週に回すという決まりも加えた。これにより、もめごとは減り、当番を忘れる人もいなくなった。
設問を「『これにより』の『これ』が指す内容を明らかにしながら、当番をめぐるもめごとが減った理由を説明しなさい」とします。
まず本文で「これ」の戻り先を探します。直前の二文、「当番表を黒板に貼り、誰がいつ掃除をするかを一目で分かるようにした」ことと、「休んだ人の分は次の週に回すという決まりも加えた」ことの両方が「これ」に含まれます。一文だけを戻り先にすると、もう一方の工夫が答案から抜けます。
ここで答案を次のように書くと、答案の中に新しい指示語が生まれます。
花子がこのような工夫をしたことで、当番の分担が明確になり、もめごとが減った。
「このような工夫」という答案内の言葉は、採点者が本文を見ていれば通じますが、答案だけを読む人には「工夫」の内容が分かりません。この答案は、本文の指示語を解き明かした上で、今度は自分で指示語を作ってしまっています。
内容を補うと、次のようになります。
花子が当番表を黒板に貼って担当を分かりやすくし、休んだ人の分は次の週に回す決まりを加えたことで、当番の分担が明確になり、もめごとが減った。
字数が許すなら、指示語の内容をそのまま書き出す方が確実です。字数が厳しい場合は、「表示と欠席時の扱いを整えたことで」のように換言して圧縮しますが、「工夫」のような抽象語一語で終わらせないようにします。
答案だけで通じるかを確かめる手順
答案を書いたら、本文を一度隠して、答案だけを読み直します。
- 答案の中に「これ」「その」「このような」「そういう」などの指示語がないか探す
- 見つかった指示語の戻り先を、答案の中の別の部分で示せているか確認する
- 戻り先が答案の中にないなら、本文の該当箇所を答案に書き足すか、具体的な言葉に言い換える
- 言い換えたとき、設問が聞いている内容(理由・気持ち・内容など)からずれていないかを見る
この手順は、抜き出しではなく記述で効きます。抜き出しなら本文の文字列をそのまま使うため、指示語が残っていれば字数や指定範囲の時点で気づきやすい一方、記述は自分で文をつなぐため、指示語が紛れ込んでも読み返すまで気づきません。記述の組み立て方全体は、記述問題の五つの手順でも整理しています。
字数が厳しいときの判断
指示語をすべて展開すると字数が超えることがあります。そのときは、まず答案の中で最も重要な要素だけを具体語に戻し、残りは短い言い換えで済ませます。先の例なら、「当番表を黒板に貼って担当を分かりやすくし」を残し、「休んだ人の分は次の週に回す決まり」の部分を「欠席時の扱いも整えた」のように短くする、といった調整です。
どちらの要素を残すかは、設問が何を問うているかで決まります。「もめごとが減った理由」を聞かれているなら、もめごとの原因に直接関わる要素を優先します。両方が原因として本文に並んでいる場合、片方だけに絞ってよいかは、設問の条件と配点の想定によって変わるため、家庭で独自に○×を決めず、指導者に確認することをおすすめします。
選択肢問題との違い
選択肢問題では、選択肢の文自体に指示語が含まれることがあります。「このような経緯」とある選択肢は、本文の経緯と照らして消去法で判断できますが、答案を自分で書く記述とは状況が異なります。選択肢は与えられた文の正誤を本文と照合すればよく、文を自分で作る必要はありません。記述では、答案の文を作る側が指示語の戻り先を用意する責任を持ちます。選択肢の判断基準は選択肢を解くための枠組みで扱っていますが、記述の答案点検とは別の点検項目として分けて考えてください。
家庭でできる点検
答案を書いた直後ではなく、少し時間を置いてから、本文を見ずに答案だけを読む練習をすると、指示語の抜け落ちに気づきやすくなります。
- 答案の中の指示語に丸をつける
- その指示語を、答案の中の別の言葉に置き換えて読んでみる
- 置き換えた文が、本文を知らない人にも伝わるか確認する
- 伝わらない場合は、本文の該当箇所から具体語を書き足す
親子で確認するときは、「これって何のこと」と本文を見ずに聞いてみるとよいでしょう。答える側が本文を見ないと説明できない答案は、採点者にとっても同じ状態です。本文を読んでいる自分の目線と、答案だけを読む採点者の目線を分けて見る練習は、記述全般の精度を上げる土台にもなります。読解の中心をつかむ段階からこの視点を持っておくと、読解の型マクロ→ミクロ〈軸〉で確認した本文全体の流れも、答案に落とし込みやすくなります。
個別指導のご相談
答案に指示語が残っていないか自分では気づきにくい、本文と答案を照らし合わせる練習をしたいという場合は、国語先生.COMまたは公式LINEからご相談ください。答案の文を一つずつ確認しながら、伝わる書き方を一緒に整理します。