中学受験国語の記述で本文の言葉を使えない子へ 根拠語句の残し方
「自分の言葉で説明しなさい」と言われると、本文に書いてある表現をひとつ残らず言い換えようとする子がいます。傍線部の周りに使える言葉があるのに、わざわざ似た意味の別の言葉に置き換えて、結果として本文の意味とずれた答案になる。添削をしていると、こういうケースにたびたび出会います。
本文の言葉を使わないこと自体が悪いわけではありません。問題は、採点の核になる語句まで自分の言葉に置き換えてしまい、本来なら点がつくはずの部分を自分で削ってしまうところにあります。
全部を言いかえると何が起きるか
記述の採点は、本文中のキーワードやそれに準じる表現が答案に入っているかどうかで加点される仕組みになっていることがほとんどです。採点者は、本文のどの語句が答案のどの部分に対応しているかを確認しながら点をつけています。
ここで、本文にある「戸惑い」という言葉を「よく分からない気持ち」のように言い換えてしまうと、意味は近くても、採点者が想定した対応関係が見えにくくなります。本文の言葉のまま書けば一発で認識される要素が、言いかえたことでぼやけてしまうわけです。とくに心情語や、本文の中で繰り返し使われているキーワードは、言いかえるとニュアンスが微妙にずれやすく、採点者に「本当に本文を読めているか」を疑わせる結果にもなります。
一方で、「自分の言葉で説明しなさい」という指示が出る問題もあります。この場合は、傍線部の指示語や比喩、抽象語をそのまま書き写すことが禁じられているのであって、本文全体の語句を一切使うなという意味ではありません。指示語や比喩を本文の具体表現に置き換える作業については「どういうことですか」に答える換言の手順で扱っていますが、この換言と、根拠語句をそのまま残す作業は、実は同じ答案の中で両立します。指示語や比喩の部分は言いかえ、名詞や心情語などの核になる部分はそのまま残す。この使い分けができていない子が、全部を自分の言葉に直そうとして失点しています。
残す言葉と言いかえる言葉を分ける
答案を組み立てるときは、本文の語句を大きく二種類に分けて考えると整理しやすくなります。
- 残す言葉:出来事や状態を表す具体的な名詞、心情語、繰り返し使われているキーワード。これらは本文の言葉のまま答案に入れる
- 言いかえる言葉:接続部分、文末の形、指示語や比喩などの要注意語。これらは設問の聞き方や字数に合わせて自分の言葉でつなぐ
たとえば本文に「不安がふくらんでいった」とあり、これが答えの根拠になるなら、「不安」という語句はそのまま使います。書き直すとしても「不安な気持ち」程度にとどめ、「もやもやした気持ち」のように別の言葉に飛ばさないようにします。一方で、この根拠を別の要素とつなぐ「そして」「その結果」のような接続の部分や、設問語に合わせる文末は、本文の言葉をそのまま使う必要はなく、答案の文脈に合わせて自由に組み立てて構いません。
この考え方は、記述問題の書き方の基本である記述問題の書き方5ステップの中の、根拠探しから組み立てへ進む段階とも重なります。要素ごとに本文根拠を集める段階で、その根拠語句を残すか言いかえるかを、要素の性質によって振り分けておくと、後の組み立てで迷いません。
設問例で手順を実演する
架空の場面で確認します。
「花子は、転校初日、誰にも話しかけられずに一日が終わったことに落ち込んでいた。翌朝、隣の席の子が『昨日、絵を描いていたよね。上手だね』と声をかけてくれた。花子は、自分のことを見てくれている人がいたと知り、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。」
「隣の席の子に声をかけられたとき、花子はどのような気持ちになったか、本文中の言葉を用いて説明しなさい」という設問だとします。
- 文末の確認:気持ちを聞かれているので、心情語で終える
- 根拠探し:「自分のことを見てくれている人がいたと知り、胸の奥がじんわり温かくなる」
- 残す言葉と言いかえる言葉の仕分け:「見てくれている人がいた」「胸の奥がじんわり温かくなる」は本文の言葉のまま残す。前後をつなぐ「〜と知り」「〜のを感じた」の部分は答案の文脈に合わせて言いかえてよい
これを組み立てると、「自分のことを見てくれている人がいたと知り、胸の奥がじんわり温かくなる気持ち。」という答案になります。本文の語句をほぼそのまま残しながら、文末だけを設問に合わせて調整した形です。
これを、全部を自分の言葉に直そうとすると、「自分を気にかけてくれる人がいると分かってうれしくなった気持ち。」のようになりがちです。意味としては大きく外れていませんが、「胸の奥がじんわり温かくなる」という本文特有の描写が消え、単純な「うれしい」に置き換わってしまっています。本文がわざわざ「じんわり温かくなる」と書いているのは、単純な喜びとは違う、じんわりとした安心に近い心情を表したいからです。この差を、言いかえの過程で消してしまうと、採点者が本文と答案を照合したときに、対応する語句が見つけにくくなります。
見直しのチェック
答案を書き終えたら、次の手順で見直します。
- 答案の中から、名詞・心情語・キーワードにあたる部分に丸をつける
- 丸をつけた言葉が本文にそのまま出てくるか、本文を見ながら一つずつ照合する
- 出てこない場合、なぜ言いかえたのかを自分に問い、必要のない言いかえであれば本文の語句に戻す
- 接続部分や文末だけは、自分の言葉でつながっているか、不自然な言い回しになっていないかを確認する
この確認をすると、意外と多くの子が、根拠語句そのものまで無意識に言いかえていたことに気づきます。本文を写すことを避けたいという意識が強すぎて、残してよい言葉まで削ってしまっているのです。
マクロで根拠語句を早く見つける
本文のどの語句を残すべきかを判断するには、その語句が本文全体の中でどれだけ重みを持つ言葉かを把握しておく必要があります。何度も繰り返し出てくる言葉、あるいは場面の転換点で使われている言葉は、多くの場合、採点者が根拠として想定している核心の語句です。
こうした語句の重みは、傍線部の周辺だけを読んでいても見えにくく、本文全体の流れをマクロでつかんでから、設問箇所をミクロで読む順序で読んでいると自然と判断できるようになります。読み方の土台については読解の型 マクロ→ミクロ〈軸〉で詳しく扱っています。
家庭でできる練習
- 過去に書いた記述答案を一つ選び、答案中の言葉を一つずつ本文と照合し、本文にない言葉だけを黄色で塗って洗い出す
- 塗った言葉のうち、必要な言いかえと不要な言いかえを親子で分け、不要なものは本文の言葉に書き直す練習をする
- 短い記述問題を一問解いた後、「残した言葉」と「言いかえた言葉」を口頭で説明させ、なぜそう分けたかを言語化させる
自分の言葉で説明する力は大切ですが、記述の得点においては、本文の核になる言葉をどれだけ正確に残せるかのほうが、実は結果を左右しやすい部分です。全部を書き直そうとする前に、まず何を残すべきかを見極める習慣をつけていきたいところです。
個別指導のご相談
どの語句を残し、どの部分を言いかえるべきかは、自分の答案だけを見ていると判断しづらく、本文と照らし合わせながら一緒に確認できる相手がいると身につきやすくなります。国語先生.COMの個別指導では、お子さんの答案を本文と照合しながら、根拠語句の残し方まで含めて確認しています。ご相談は公式サイトまたは公式LINEからお気軽にどうぞ。